赤字だから魅力がない会社だとは言い切れない理由
黒字の会社に比べると買収する魅力を感じにくい赤字会社ですが、会社が赤字になる理由はさまざまです。赤字を理由に切り捨てる前に、その会社に買収先としての魅力があるかないかをしっかりと見極めることが大切です。
そこで、赤字が会社の魅力を確定するとは言い切れない理由について見ていきましょう。
赤字の理由はさまざま
赤字会社でも買収に適している可能性のひとつが、赤字に陥った原因が事業の不振とは限らないということです。
ひと口に赤字会社といっても、本業(営業利益)が赤字のケースもあれば、本業が黒字でも本業以外(営業外収益や営業外費用)の影響で赤字が出ているケースもあります。
例えば、営業利益が黒字で経常利益や売上総利益が赤字の場合、その年だけの特別な事情で赤字になっている可能性が考えられます。このように、赤字会社の買収を考え探る際はその会社の財務諸表を精査するし、赤字化した原因を探る必要があります。
対象会社の損益計算書を見れば、売上総利益や営業利益、経常利益や当期純利益、税引前当期純利益の5つの利益を確認できます。これらの数値によって、赤字の出ている現状だけではなく、会社の将来性が予測可能です。
経常利益…本業の損益で示す営業利益に本業以外の収益や費用を加減したものです。本業以外の収益には受取利息や雑収入、本業以外の費用には支払利息や貸倒損失などがあります。
税引前当期純利益…「税引前」とある通り、法人税などの税金を支払う前の利益で、経常利益に当期の特別な損益を加減したものです。特別な利益や損失は通常の業務では計上されない収益で、例えば固定資産の売却損益や有価証券の売却損益などが該当します。
当期純利益…税引前当期純利益から法人税などの税金を差し引いたものです。会社の最終的な利益を示しており、当期純利益が赤字の場合は当期純損失と呼ばれます。
赤字でも将来性の高い会社はある
赤字を出していても将来性の高い会社は数多く存在します。
前述したとおり、財務上は赤字といっても本業外費用や特別損益の影響など一時的な場合もあります。将来的に黒字化を予測できる成長性の高い会社も含まれるでしょう。そのため、赤字会社の買収を検討する際は、会社の将来性を検討することが大切です。
市場の変化、競合の進出、原材料の高騰など、赤字の要因が事業外にあることは珍しくありません。なぜ赤字になっているのか、要因を明確にすると、会社の成長性を正しく評価できるでしょう。
赤字会社を買収するメリット
一見デメリットに感じられる赤字会社を買収ですが、実際には多数の恩恵を受けられる可能性があります。
では、赤字会社の買収で考えられる主なメリット、そして気になる注意点を見ていきましょう。
買収価額相場が安い場合がある
会社の買収価格は、買収時点の会社の企業価値によって決定されます。そのため、赤字会社であるほど企業価値は低く判断され、買収価格は安くなる傾向があります。そのため、会社のM&Aにかかる初期投資費用を抑えることができるのです。
将来性や成長性が加味されずに買収価格が決まるため、安く買い取った赤字会社がその後大きく売上を伸ばす可能性もあり、結果として割安に買収できるケースもありえます。
注意点
ただし、赤字会社だからといって、必ずしも買収価格が安くなるとは限りません。会社の黒字と赤字はわかりやすい企業価値の判断基準ですが、買収価格には明確な相場がなく、絶対的な指標とはならないのです。
その会社にしかない技術がある、高いブランド力を持つといった特別の事情がある場合、赤字であっても買収価格は高くなります。
税務上の繰越欠損金による節税効果が期待できる
赤字会社を買収することで、節税効果を期待できるケースがあります。税務上の繰越欠損金を利用した節税効果です。
青色申告法人は、当期に出た赤字を翌期以降、最大で10年間にわたって繰越すことができます。この繰り越した赤字を税務上の繰越欠損金といい、翌期以降の利益(課税所得)と相殺することが可能です。
この繰越欠損金制度を利用すれば、赤字会社の買収額を自社の課税所得を減額できるため、納税額を圧縮できます。
注意点
税務上の繰越欠損金による節税効果を目的に、買収を考える会社も珍しくありません。しかし、繰越欠損金は条件によっては利用が認められず、期待したような節税効果を得られない可能性があります。
買収した会社の主たる事業が継続する、従業員のうち80%以上の雇用を確保する、買収する会社の売上や資本など会社の規模が5倍を超えないなど、税務上の繰越欠損金の利用には法人税法上のルールが厳格に定められています。
M&Aで繰越欠損金制度を利用することに問題はありませんが、不当な利用と税務署に嫌疑をかけられないように注意しなければなりません。
ただし、逆に言えば、法律の規定を満たしていれば制度の利用に制限はありません。M&Aにおける税務上の繰越欠損金の利用については、会計士や税理士など専門家に相談しておくと安心です。
税務署から節税目的の買収と判断されると、税務上の繰越欠損金の利用が認められないことがあります。節税のメリットを得るには、税務上の繰越欠損金の利用条件を知ることが重要です。
原則、買手企業による事業改善、黒字化の事業改善、買手企業を目的にした買収の場合に、税務上の繰越欠損金の利用が認められます。節税目的だけで赤字会社を買収することは、控えたほうが良いでしょう。
シナジー効果を得られる
自社と関連する事業を展開している会社であれば、買収によるシナジー効果を得られる可能性があります。
シナジー効果とは複数会社の要素が組み合わせることで生まれる相乗効果のことで、「1+1=2」ではなく、「3」にも「4」にもなっていくことを意味します。自社と買収した会社、双方の事業の強みを生かして弱みを補い合うことで、様々な相乗効果を期待できるでしょう。
買収すれば、その会社の商圏や人材、業態などがそのまま手に入ります。例えば、飲食業界で事業の拡大を狙う場合、新たな販路の開拓や顧客の獲得、交渉力アップによる仕入コスト削減といった効果が考えられます。
自社に不足する技術や資源を補う会社であれば、赤字であっても大きなメリットを受けられるでしょう。
そのほか、シナジー効果に関する内容は以下の記事を参考にしてください。
>>【飲食店経営者向け】M&Aにおけるシナジー効果について
赤字会社の買収を検討する際の注意点
これまで赤字会社を買収するメリットを解説してきましたが、一方で注意すべき点もあります。ここからは、赤字会社の買収を検討する際に気をつけるポイントについて確認していきましょう。
赤字の要因や偶発債務の有無を把握する
赤字会社を買収する際には、会社が赤字に陥っている要因について把握する必要があります。買収候補である赤字会社に対して、事前にデューデリジェンス(適正評価の手続き)を入念に行い、会社の財務状況や問題点を洗い出して把握することが重要です。
また、赤字の要因のひとつとして、偶発債務についても把握しておかなくてはいけません。偶発債務とは、現時点では発生していないものの将来的に会社が負担する可能性のある債務のことです。
例えば、手形の裏書を行っていたり、第三者や取引先の債務を保証していたりといったケースが偶発債務にあたります。
赤字会社の赤字の要因や偶発債務の有無について把握していないと、買収後に思わぬ損失や予想していた効果が得られないことがあるので要注意です。
赤字会社の事業性の評価とシナジー効果の検討をする
先述の通り、赤字会社を買収するメリットのひとつがシナジー効果を得ることです。しかしそのためには、買収先と自社とのあいだにシナジー効果が生じるかを見極めておく必要があります。
重要なのは自社と買収先の現状です。両社の事業を評価して経営資源を把握すれば、シナジー効果の可能性が見えてきます。現時点で赤字会社であっても、自社の成長にプラスとなる技術や人材、取引先を持っている、あるいは自社の経営資源を利用することで黒字化が予測されるといった場合、シナジー効果によるメリットは大きいでしょう。
逆に、買収価格が安いから、節税効果があるからといった理由だけで赤字会社を買い取るのは危険です。シナジー効果を得られないどころか、買収後の収益に悪影響を及ぼし、会社の経営を傾かせるリスクも考えられます。
赤字会社買収はメリットだけではない!専門家への依頼が成功への近道
ここまで確認してきたとおり、赤字会社の買収にはメリットだけでなく、様々な注意点があります。そのため、従業員や取引先、株主などから理解を得られにくく、自社のみで話を進めるのは難しいのが現状です。
また、赤字会社の買収を成功させるには入念なデューデリジェンスなどの専門的な調査が重要になります。それらの手続きを一手に引き受けてくれる、専門知識と経験が豊富なM&A仲介会社の助けは必要でしょう。
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まとめ
赤字会社であっても、本業では黒字が出ている、将来性があるなど、買収先として魅力の多い会社はたくさんあります。
M&Aによる会社買収は、節税効果やシナジー効果など、自社だけでは得られない効果をもたらすことも期待されます。赤字会社の買収であっても、自社の成長に寄与する可能性はあるでしょう。
ただし、赤字の要因や偶発債務の有無を把握するなど、赤字会社の買収では事前のリサーチが大切です。自社にメリットをもたらす買収となるかどうかを判断するためにも、専門知識が高くM&Aの経験豊富な専門家に相談することをおすすめします。