EV/EBITDA倍率と企業価値評価法を知ってM&Aを成功に導こう

M&Aを行う際には売り手企業の価値を評価する必要があります。企業の評価方法には様々ありますが、中でもよく利用されるのが「EV/EBITDA倍率」です。 EV/EBITDA倍率は、M&Aを行う場面のほか、自動車や電機産業のような世界的な経済活動を行う企業では株式を国際比較する基準としても使われています。 この記事ではEV/EBITDA倍率の基本を解説するとともに、具体的な数値を用いてM&Aにおける企業価値算定方法を紹介します。


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EVとは

EVとは「Enterprise Value」の略であり、簡単にいうと「企業価値」を指します。

企業価値にも意味は様々ありますが、EVが示す企業価値とはその会社全体の経済的価値のことです。つまり、会社の事業活動等から生じる経済的価値の総和になります。

またEVは、その価値が帰属する資本提供者(株主、銀行、少数株主など)に対する価値の総和によっても算出することができます。

EVの計算方法

さっそく具体的なEVの計算方法をみていきましょう。ここでは、M&Aに際してよく用いられる「資本提供者の価値の総和」から求める方法について説明します。

EVは以下の式によって算定されます。
●EV(企業価値)=株式時価総額+純有利子負債(有利子負債-現預金・遊休資産など)+ 少数株主持分
ちなみに純有利子負債とは、有利子負債から現預金や現金同等物を控除したものです。

つまり、株主に帰属する価値である株式時価総額、銀行などの債権者が提供する有利子負債、少数株主に帰属する価値である純有利子負債などの総和をEVとみなすというわけです。

なお、純有利子負債は有利子負債から事業に関わりのない資産、現預金等を引いて算定されます。これはあくまでも、EVがその会社の事業自体の価値をベースにしているためです。

この算定方法は株主と債権者等にとっての価値を前提としているため、市場から見た企業の現在価値を反映しやすいといえます。

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EBITDAとは

EBITDAは「Earnings Before Interest Taxes Depreciation and Amortization」の略で、利息(Interest)、税金(Taxes)、減価償却(Depreciation and Amortization)を差し引く前の企業の純粋な収益力を指します。

国によって金利水準、税制、減価償却の方法は異なりますが、EBITDAを用いるとこれらの差異を排して企業の収益力を算定することができます。

同じ基準で各国の企業を評価できるのは、EBITDAの大きなメリットといえるでしょう。

たとえば、減価償却費は計上されるものの、実際には支出を伴わない経費です。そのため、減価償却費が毎年多く計上される企業の場合、経費計上の額が膨らみ、会計上の営業利益が減少してしまいます。

つまり、減価償却費には企業が本来持つ収益力を過小評価させるリスクがあるのです。

EBITDAを用いれば、減価償却費に影響を受けず、企業の収益力を見極められます。

EBITDAの計算方法

では、EVITDAの具体的な計算方法を解説していきます。

EBITDAの算定にはいくつかの方法がありますが、ここでは以下の式を紹介します。

●EVITDA=営業利益+減価償却費

EBITDAは金利水準や税制の違いを排除した企業の利益です。そのため、支払い利息や税金を差し引く前の営業利益に対して、損益計算書の販売費や一般管理費に計上された減価償却を足し戻して求められます。

営業利益とは本業から出た利益のことを指しており、支払い利息や税金を引いた当期純利益とは異なります。

また、営業利益からは減価償却費が引かれているため、資金の流出を伴わない減価償却費を加算するのです。

言い換えれば、EBITDAはキャッシュをベースとした営業利益ということにもなります。

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EV/EBITDA倍率(EBITDAマルチプル)とは

EV/EBITDA倍率(EBITDAマルチプル)とは、EV(企業価値)をEBITDAで割ることにより算定される数値のことです。EVがEBITDAの何倍であるかを示しています。

EV/EBITDA倍率は、M&Aで企業を買収するかどうかや、株価を比較する際の基準となる指標のひとつです。

企業価値で表すEVと純粋な収益力ではかるEBITDAを用いれば、M&Aで投下したコストをどれぐらいで回収できるかを試算することができます。

EV/EBITDA倍率の数値が小さいほど、買い手企業はM&Aに投資した金額を短期間で回収できるということを表しているのです。ちなみにEV/EBITDA倍率は、平均して8~10倍だとされています。

EV/EBITDA倍率の計算方法

先述の通り、EV/EBITDA倍率はEVをEBITDAで割ることで算定できます。

● EV/EBITDA倍率=EV(株式時価総額+純有利子負債+少数株主持分)/EBITDA(営業利益+減価償却費)

具体的な数値を用いてみていきましょう。

EVが3,000万円、EBITDAが500万円の企業があるとします。EV/EBITDA倍率は「3,000万円/500万円」、つまり6倍になります。

この結果から、投資したコストをおおむね6年で回収できるということがわかるのです。

このように、EV/EBITDA倍率を用いると、比較的簡単にM&Aの判断指標を知ることができます。そのため、EV/EBITDA倍率は「簡易買収倍率」と呼ばれることもあります。

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EV/EBITDA倍率で企業価値評価をする方法

次にEV/EBITDA倍率を用いて、非上場企業の価値評価の方法を3つのステップにそって解説します。非上場会社には市場価格が存在しないため、EV/EBITDA倍率を用いた企業評価が有効です。

なお、この評価方法は「類似会社比準法」や「マルチプル法」と呼ばれることもあります。

①売手企業に類似する上場企業からEV/EBITDA倍率を算出する

まず、非上場である売り手企業に類似した上場企業の数値を用いて、EV/EBITDA倍率を算定します。上場類似企業の情報は有価証券報告書や会社四季報から探すといいでしょう。

上場類似企業とは、売り手企業と同じ事業を行っていたり、事業規模が似ていたりといった共通点や似た点が多く見られる企業を指します。

また、複数の上場類似企業をピックアップすれば、試算の正確性を増すことができます。

ここでは簡易的に、売り手企業Aと上場類似企業Bの2社を想定してシミュレーションします。

売り手企業Aの基本的な数値は以下の通りです。

●営業利益1,300万円
●減価償却費200万円

こうした数値は決算書などを見ればわかります。
また、上場類似企業BのEV/EBITDA倍率は10倍だったとしましょう。

②売り手企業のEBITDAを算出する

次に売り手企業のEBITDAを算出します。先述の通り、EBITDAの算定式は「営業利益+減価償却費」であるため、先ほどの数字を当てはめると以下のような結果となります。

●売り手企業AのEVITDA=営業利益(1,300万円)+減価償却費(200万円)=1,500万円

単純化するとA社の収益力は1,500万円であり、1年間に1,500万円の営業キャッシュを生み出す力があるということがわかります。

③売り手企業のEVを算出する

ここまでのステップで、売り手企業A社のEBITDA(1,500万円)と上場類似企業B社のEV/EBITDA倍率(10倍)という数値が明らかになっています。

EV/EBITDA倍率を式に表すと「EV/EBITDA倍率=EV(株式時価総額+純有利子負債+少数株主持分)/EBITDA(営業利益+減価償却費)」となります。

売り手企業A社のEVを求めるためには、売り手企業A社のEBITDA×上場類似企業B社のEV/EBITDA倍率となりますので、売り手企業A社のEV= 1,500万円×10倍=1億5,000万円

これによりA社のEV(企業価値)はおおむね1億5,000万円であるとわかりました。

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M&Aをするかどうかの検討

上記のように、売り手企業の価値を評価したら、その結果を踏まえてM&Aを行うか否かの検討をします。ここでも先ほどの売り手企業A社の数値を使って、検討方法について説明します。

M&Aを検討するときに注意したいのが、A社の企業価値が1億5,000万円だったからといって、この金額がそのまま売り手の手元に入るものではないということです。

EV(企業価値)は「株式時価総額+純有利子負債(有利子負債-現預金・遊休資産など)+ 少数株主持分等」です。A社のような非上場会社の株式価値を算出する場合には、「株式価値=EV(企業価値)-純有利子負債(有利子負債-現預金・遊休資産など)-少数株主持分」となります。

例えば、銀行からの借入1億円、現預金5,000万円、少数株主持分なしだった場合は、以下です。

●株式価値=1億5,000万円-(1億円-5,000万円)=1億円

となり、1億円が株式譲渡代金となります。

さらに、今回紹介した方法で算出した企業価値や株式価値がそのまま取引額になるわけではないという点にも注意が必要です。実際の取引価格はデューデリジェンスなどの調査を通して、正常収益力の評価や簿外債務の有無などを確認した上で決定されます。

また、比較しているのは上場企業である一方で、売り手企業は非上場会社となります。非上場会社の株式は上場会社の株式と比べて流動性が低く、換金するためには一定のコストや労力がかかりますので、非流動性ディスカウントを一定程度考慮する必要などもあります。

M&Aを成功に導くには、多角的な資産や調査が必要なのです。

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企業価値評価はM&Aアドバイザーを活用するのがベスト

M&Aを行うにあたって売手企業の企業価値を算定することは、売り手企業と買い手企業の双方に必要なプロセスです。

売り手企業には、自社の事業が市場から見てどのような評価を受けているのかがわかるという意義があります。また、買い手企業にとっては、売り手企業の買収額にあたりをつけるとともに、M&A後の投資の回収計画を立てるのに役立ちます。

EV/EBITDA倍率は簡易的に企業価値を算定できる便利な方法ですが、実際に企業価値を判断するには非常に複雑で手間のかかる作業が必要となります。正確かつ効率的に企業価値評価を行いたい方は、M&Aアドバイザーへ相談するべきでしょう。

M&Aアドバイザーを活用すると、M&Aにおけるリスク回避や最も適したスキームの選択など、多くのメリットがあります。

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まとめ

EV/EBITDA倍率とは、M&Aで投下したコストをどのくらいの期間で回収できるかを表す指標です。簡易的な算定方法ではありますが、企業価値を判断するのに適しており、M&Aを検討している売り手企業、買い手企業の双方に関わる知識といえるでしょう。

今回の記事を通じてEV/EBITDA倍率に関する基本を理解し、自社でM&Aを検討する材料とするとともに、実際にM&Aを行う際には専門家の力を借りて取引を成功に導きましょう。