M&Aトレンド

【飲食店のM&A】2021年の飲食業界における5つのM&Aトレンド

昨今、外食業界は新型コロナウイルスによる影響、少子高齢化、節約志向の煽りを受けております。大手企業・中小企業を問わず、M&Aによる事業シナジー・付加価値創出、事業売却による選択と集中が業界全体でますます加速すると予想されます。 特にコロナウイルス影響によりトレンドがどのように変化をしたか、紹介していきます。


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昨今、外食業界は新型コロナウイルスによる影響、少子高齢化、節約志向の煽りを受けております。大手企業・中小企業を問わず、M&Aによる事業シナジー・付加価値創出、事業売却による選択と集中が業界全体でますます加速すると予想されます。

特にコロナウイルス影響によりトレンドがどのように変化をしたか、紹介していきます。 特に売手目線のトレンド、すなわち、売手の売却理由を5つに分類してそれぞれ実際の事例を用いて詳細を解説していきます。売手の業界トレンドを把握することは、買手にとって交渉や買収後の経営を成功に導くヒントです。それぞれについて、確認をしていきましょう。

コロナウイルス影響禍における飲食店業界のM&A

コロナウイルスの感染が始まった2020年2月以降、特に緊急事態宣言により飲食店の閉店を余儀なくされた4月以降、飲食店業界は大きな変化をもたらしました。

2020年は飲食店事業者の倒産件数は過去最多となり、M&Aの売却活動を行う前に経営破綻してしまうケースもありました。一方、2021年に入ると緊急事態宣言中の協力金による経常黒字化によって倒産件数は激減をしており、いずれにしても飲食店経営は外部環境の影響を多大に受けて経営の難易度が各段に上がっていると言えます。

2021年のM&A案件の成約数

2021年のM&A案件の成約件数は2018年の同等水準の82件で、過去最多となった2019年の101件から減少しました。かつ、2021年の成約のうち支配権の移動を伴うM&Aは45件(55%)となっており、増資等のレスキュー案件の割合が増える一方で、支配権の移動を伴うM&Aの成約件数は大幅に減少しています。

飲食店のM&A成功のカギはトレンドを把握すること

M&Aにおいては、2000年代以降、外食産業において急速に広まってきており、中小企業や若手経営者を中心とした戦略的M&Aが増えてきました。しかし、2019年をピークにして、2020年以降はコロナウイルスによる影響により、そのトレンドも変わりつつあります。状況の変化を好機と捉え、今後戦略的なM&Aを行うためにも、飲食業界のM&Aのトレンドについて把握しておきましょう。

飲食店業界における売手目線での業界トレンドは、5つに分類することができます。買手としては、売手目線のトレンドを理解することで下記のようなメリットが生まれるでしょう。

・M&Aを実施すべき最も良いタイミングを見計らうことができる
・飲食店買収ターゲットをより明確にすることができる
・買収後の経営計画を立てやすくする

M&Aの案件一覧を確認する際、この案件はどのトレンドに該当するのかを考えながら検討を進めると、頭の整理がしやすくなるでしょう。

飲食業界におけるM&Aの5つのトレンド

飲食業界におけるM&Aのトレンドは下記の5つです。それぞれの詳細について確認をしていきましょう。

  1. 戦略的売却型
  2. 事業承継型
  3. 再生型
  4. ファンド売却型
  5. 資本業務提携・経営統合型

1.戦略的売却型

戦略的売却型とは、大手飲食チェーンなどが業態整理を行う場合などが該当します。特に、コロナウイルスによる影響が大きい飲食業界においては、注力すべき事業の見極めが迫られていたとも言えます。

たとえば、2021年4月に吉野家ホールディングスは傘下にある京樽をFOOD & LIFE COMPANIESへ売却しました。吉野家ホールディングスはコロナ影響によって、ホールディングス全体の売上高が前年同期比約35%減、営業赤字も過去最大となるという事態を受け、事業の選択と集中を戦略的に進めるために売却を選択しました。

買手から見ると、売手側の運営下では収益性が低い場合でも、買手側とのシナジーにより早期に業績を改善させて利益を出せる可能性があります。また、好調事業を引き継ぐことができることも多く、譲受後から早期に利益を出すことができます。好調事業である場合、売却金額は高くなりますので、投資に見合った収益を得られるかという観点のチェックは必須です。

2.戦略的売却型

事業承継型とは、後継者のいない高齢オーナーなどが事業承継させることを目的として売却するタイプです。

帝国データバンクの全国「社長年齢」分析調査によると、全国の経営者の平均年齢が31年連続で過去最高を更新しました。2021年の社長の平均年齢は60.3歳(前年比0.2歳増)でこれまでの調査で最も高い結果となりました。社長の平均年齢は1990年の調査開始から右肩上がりで推移しています。

後継者問題が解決することで、従業員や取引先、売却後のオーナーの精神的・金銭的なメリットがあります。仮に事業承継型のM&Aが行われなくなってしまえば、その店舗は閉店せざるを得ず、従業員の解雇、取引先も売上が減少し、関係者にとっては嬉しくないことでしょう。

今後も日本の高齢化社会を背景として、事業承継型のM&Aは増加するものと考えられます。

たとえば、2021年8月、国内外にレストランを展開するWDIは、東京・浅草にある創業141年の老舗すき焼き店「ちんや」ののれんを承継しました。「ちんや」は日本を代表する老舗すき焼き店であるものの、店舗の老朽化やコロナウイルス影響により一時閉店を余儀なくされていました。WDIは承継後、2022年に創業の地浅草で再オープンしています。

事業承継型の対象となる売手は、長年店舗運営を継続しておりブランドやノウハウがある場合が他のタイプと比べて多くなります。ブランドやノウハウといった無形資産を、M&Aによりそのまま引き継ぐことができることが、買手の大きなメリットです。

他方で、長年店舗を継続していることから、なじみのお客さんや忠誠心のある従業員がいる場合がほとんどでしょう。そのため、やはりオーナーチェンジされた際の関係者への影響は大きくなります。

事前に企業文化を理解すること、従業員の性格やスキルを把握しておくこと、顧客層の分析、譲渡契約書で対応できる点は補填するなどの対策が必要となります。

3.再生型

不採算の事業・会社を第三者の協力や提携により再生を図るタイプです。再生型に移行する決断が遅くなってしまえば、再生させることができずやむなく破産に至るケースもあるため、決断は早期であることが重要だといえるでしょう。

再生型のタイプはより詳細に、民事再生、会社更生、私的整理の3つに分類されます。

民事再生…法律の定める手続きによって進められる手続きであり、最もよく利用される法的再生の手法です。

会社更生…民事再生同様に法律の定める手続きによって進めますが、主に担保設定されている不動産等が事業再生に必要な場合に利用する手法です。

私的整理…法律にはよらず債権者や株主など関係者間での協議結果を基に再生を果たしていく手法です。

どの再生手続にも共通しているのは、債務の切り下げ、つまり債務免除が行われる点だといえるでしょう。

再生をする経営者は再生計画と呼ばれる事業計画を作成し債権者の同意を得ます。債権者が同意をする基準としては、再生計画が結果として多くの債権回収を実現できると判断できるかどうかです。再生計画を作成する場合、新たな第三者が株主として協力することが一般的であり、スポンサーとも呼ばれます。

2021年8月、三光マーケティングフーズは、民事再生手続き開始決定を受けた鮮魚、魚介類、海産物小売り・卸売業、水産物加工業の海商を買収しました。三光マーケティングフーズは、沼津我入道漁業協同組合と業務提携を行い、同漁協に加入しています。水産事業を立ち上げ、サプライチェーン、収益強化に向けて取り組んでいます。飲食事業の業態、商品強化、新たな販路の開拓や沼津での水産事業とのシナジー効果を活かすことで、早期に事業を確立することを目的としています。

飲食店のM&Aを計画している買手は、このような再生型は案件自体が少ない一方、安価での飲食店譲受を実現できる可能性があります。もちろん、買手に企業再生や飲食店経営のノウハウ、資金的余裕があることが前提ですが、実際に再生できた際の金額的メリットは安値で投資している分、大きくなるといえるでしょう。

4.ファンド売却型

会社・事業の成長拡大のため、業界内のしがらみのない投資ファンドに売却するタイプです。ファンド支援のもと、管理体制の強化や合理的な拡大成長を図ります。売主である経営者は継続して代表取締役として残るケースもあれば、引退するケースもあります。

昨今の飲食店業界において、最も注目された事例が2021年11月に香港の資産運用会社のであるパシフィック・アライアンス・グループ(PAG)がGYRO HOLDINGSへ投資した事例です。GYRO HOLDINGS は2019年にサブライムとカフェカンパニーが統合して発足しました。祖業の居酒屋を中心に90ブランド以上のレストランを展開しています。コロナウイルスによる多大な影響を受けており、早期回復による会社の存続と更なる成長を目的としてPAGに売却しました。

このようにファンド売却型の特徴としては、大規模案件であることが多く、金額に直すと数十億円~数百億円のディール(取引)が多くなっている点です。ファンドは買収した後、ドラスティックに経営改善させていき、5年程度で上場や売却等することで、利益を得ることを目的としています。

ファンドは投資・運用期限が決まっているので、投資先が上場を果たせない場合は、事業会社への売却も検討します。そのため、買手目線からすると、ファンドが投資して3年~5年程度経過している投資先は、買収対象となり得ます。

主なファンドが投資している外食企業一覧は以下になります。

5.資本業務提携・経営統合型

会社・事業の成長拡大を目的として、資本業務提携や経営統合を行う場合などが該当します。両社の経営陣は継続しつつ、それぞれの強みを生かしてともに発展させていくタイプです。そのため、スキームとしては株式譲渡、増資、株式譲渡と増資の組み合わせの3パターンで行われることが通常です。

買手の株式取得比率も100%ではなく、50.1%以上の過半数、20%以上の持分法が適用される比率、など様々な事例があります。売手側にもある程度の持株比率を残すことで、提携後も一緒に事業運営を行うことができるのです。

コロナウイルスの影響下においては、飲食店以外の業界の企業からの資本参加による資本業務提携が目立っています。

例えば、2021年12月、オイシックス・ラ・大地は、居酒屋「塚田農場」などを展開するエー・ピー・ホールディングス(APHD)に資本参加し、資本業務提携をしました。オイシックス・ラ・大地はコロナ禍において、営業自粛の影響を受けた飲食店の食材を扱う支援販売企画「おうちレストラン」をスタートしました。APHDの「塚田農場」の食材も同サイトにて販売しており、コロナ禍における食領域での連携について協議をし、資本業務提携により連携を強化することに至りました。

買手目線からすると、資本業務提携・経営統合型の場合、経営の効率化や統合後のシナジーを見込むことができるでしょう。

そのため、事前に統合後の事業計画やシナジー計画を策定し、統合後も計画通りに進んでいるのかのチェックを行うことが必要となります。

まとめ

今回は、飲食店業界のM&Aの5つのトレンドについて紹介してきました。5つのトレンドとは、①戦略的売却型、②事業承継型、③再生型、④資本業務提携・経営統合型、⑤ファンド売却型です。

本記事でも紹介したように、それぞれのタイプごとに、買手に対するメリットが異なってきます。たとえば、①戦略的売却型であれば「好調な事業を引き継げることができる」、②事業承継型であれば、「ブランドやノウハウを獲得することができる」といった点です。

売手の売却トレンドを把握することで、適切に買手としてはM&A計画やPMI計画を策定することができるでしょう。

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