【株式譲渡】買収の仕訳
株式譲渡とは、買い手が対価を払い売り手から株式を譲渡してもらうことです。50%超の株式を譲渡された対象会社は買い手の子会社となり、経営の一切を承継します。M&Aの手法の中では比較的用いられることが多いやり方です。
この項では、株式譲渡の手法を用いて買収した場合の仕訳を紹介します。
株式譲渡の仕訳3パターン
買収した企業の発行済株式に対して、どの程度の割合を取得したかによって仕訳は3つのパターンに分けられます。
・子会社株式
・関連会社株式
・その他の株式
ここでいう割合とは、議決権のある株式の保有割合のことです。前述した通り、議決権のある株式の50%超を取得した場合、その会社は子会社になるため「子会社株式」で処理します。
ほとんどのケースでは、「子会社株式」になりますが、数回に分けて株式を取得することもあります。議決権のある株式の20%以上50%以下の取得の場合は「関連会社株式」に、20%未満の場合は「その他の株式」に該当します。
株式譲渡で買収したときの仕訳
では、「子会社株式」「関連会社株式」「その他の株式」それぞれを取得した場合の仕訳について紹介していきます。
子会社株式の仕訳
(例)A社は5,000万円を当座預金から支払い、B社株式の議決権のある株式を55%取得。
借方勘定科目 | 借方金額 | 貸方勘定科目 | 貸方金額 | 摘要 |
子会社株式 | 5,000万円 | 当座預金 | 5,000万円 | B社株式の取得 |
議決権のある株式の50%超を取得しているため、「子会社株式」で処理します。
関連会社株式の仕訳
(例)A社は3,000万円を当座預金から支払い、B社株式の議決権のある株式を30%取得。
借方勘定科目 | 借方金額 | 貸方勘定科目 | 貸方金額 | 摘要 |
関連会社株式 | 3,000万円 | 当座預金 | 3,000万円 | B社株式の取得 |
議決権のある株式の20%以上50%以下の取得をしているため、「関連会社株式」で処理します。
その他の株式の仕訳
(株)A社は1,000万円を当座預金から支払い、B社株式の議決権のある株式を10%取得。
借方勘定科目 | 借方金額 | 貸方勘定科目 | 貸方金額 | 摘要 |
投資有価証券 | 1,000万円 | 当座預金 | 1,000万円 | B社株式の取得 |
議決権のある株式の20%未満を取得しているため、「その他の株式」になります。会計上、「その他の株式」は「投資有価証券」勘定で処理します。
株式譲渡で買収した後の仕訳
株式譲渡による買収の仕訳は、株式の取得時だけではありません。買収した後も仕訳が必要になるケースがあります。その代表的なものが、決算時の仕訳です。
実は、決算時の仕訳は、保有している株式の状況によって、仕訳が不要になる場合があります。保有している株式が非上場株式の場合、または上場株式の場合でも子会社株式、関連会社株式に該当する場合には、決算時の仕訳は不要です。
保有している株式が、上場株式で投資有価証券の場合は、決算日に評価替えの仕訳を行う必要があります。具体例で仕訳を見ていきましょう。
(例)A社は、1,000万円で、B社株式の議決権のある株式を10%取得した。決算日のB社株式の時価は10%の所有分で1,100万円だった。なお、法人税率は40%とする。
借方勘定科目 | 借方金額 | 貸方勘定科目 | 貸方金額 | 摘要 |
投資有価証券 | 100万円 | その他有価証券評価差額金 | 60万円 | 決算仕訳 |
繰延税金負債 | 40万円 | 決算仕訳 |
決算日では、100万円の時価が上昇しているため、所有している株式も100万円増やす会計処理をする必要があります。税効果会計による会計処理をしている場合は、評価差額のうち、税金に該当する部分(40%部分)を「繰延税金負債」または「繰延税金資産」などの科目で処理します。
株式譲渡に関する仕訳の注意点
買収した会社が、子会社になる場合は、連結決算をすることができます。連結決算をする場合は、のれんを認識し、会計処理をする必要があります。のれんとは、買収した会社の純資産の時価と実際の買収価格の差額のことです。
のれんについては、こちらの記事で詳しく解説しています。ぜひ参考にしてください。
>>負ののれんとは何か|発生する原因と特別利益の会計処理を解説
連結決算については、のれん以外についても注意することが多くあります。必ず、税の知識のある専門家に相談するようにしましょう。
【事業譲渡】買収の仕訳
事業譲渡とは、M&Aの方法のひとつで、買い手企業が売り手企業の事業の一部、または全部を取得することをいいます。
ここでは、事業譲渡による買収の仕訳を確認しておきましょう。
事業譲渡の仕訳
株式譲渡とは異なり、株の取得ではなく、事業に関連する資産などを直接買い取ることになるため、仕訳も株式譲渡と大きく異なります。
事業譲渡では、買い取った事業の資産と負債をすべて仕訳することが必要です。そのため、買い取った事業の資産と負債が、貸借対照表に記載されることになります。また、記載時は簿価ではなく、時価で記載するのが原則です。
事業譲渡で買収したときの仕訳
では、具体例で事業譲渡による買収の仕訳を見ていきましょう。
(例)A社は事業譲渡により、B社から次の資産・負債を10,000万円で取得。
棚卸資産1,000万円、土地5,000万円、建物3,000万円、機械装置1,800万円、事業用負債1,000万円、金額はすべて時価とする。
この場合の仕訳は次のようになります。
借方勘定科目 | 借方金額 | 貸方勘定科目 | 貸方金額 | 摘要 |
棚卸資産 | 1,000万円 | 事業用負債 | 1,000万円 | 事業譲渡による取得 食材 |
土地 | 5,000万円 | 現金預金 | 10,000万円 | B社土地 |
建物 | 3,000万円 | B社建物 | ||
機械装置 | 1,800万円 | 製造用機械 | ||
のれん | 200万円 | 事業譲渡による取得 |
のれんは、実際の買収価格と買収した会社の時価純資産価値の差額です。時価純資産価値よりも高い価格で事業を買収した場合に、のれんが発生します。
今回のケースでは、現金預金10,000万円-(棚卸資産1,000万円+土地5,000万円+建物3,000万円+機械装置1,800万円-事業用負債1,000万円)=200万円となります。
消費税を税抜処理で処理している場合は、仮払消費税等の仕訳が追加されます。摘要欄には、棚卸資産や機械装置の種類など、何を取得したのか分かるように記載します。
事業譲渡で買収した後の仕訳
事業譲渡の仕訳には決算時の仕訳が必要です。このことを「のれん償却の仕訳」といいます。
のれんは、最長20年にわたって経費にすることが可能です。これを「償却」といいます。そのため、決算時にはのれん償却の仕訳を行います。
例えば、決算時にのれんの償却費が10万円だった場合の仕訳は、次のようになります。
借方勘定科目 | 借方金額 | 貸方勘定科目 | 貸方金額 | 摘要 |
のれん償却費 | 10万円 | のれん | 10万円 | のれん償却 |
事業譲渡に関する仕訳の注意点
事業譲渡では、時価よりも高い価格で事業を買収した場合に、のれんが発生します。では、時価よりも低い価格で事業を買収した場合にはどうなるのでしょうか。この場合には、「負ののれん」が発生します。
例えば、資産時価1,000万円の事業を900万円で取得した場合の仕訳は次のようになります。
借方勘定科目 | 借方金額 | 貸方勘定科目 | 貸方金額 | 摘要 |
事業資産 | 1,000万円 | 現金預金 | 900万円 | |
負ののれん | 100万円 |
時価よりも安い価格で事業を購入できているため、買い手企業は得をしたことになります。そのため、負ののれんは利益で処理する必要があります。負ののれんは、のれんの様に毎年少しずつ処理をしていくのではなく、買収年度に一括して利益(特別利益)にする必要があります。
企業買収にはM&Aアドバイザーのアドバイスが不可欠
M&Aはもちろん、のれん代の算出や会計処理の方法など、M&Aには専門家の知見が必要な場面が多数あります。そのため、M&Aの専門家のアドバイスは必須といえるでしょう。
企業の買収を検討している方は、M&Aに対する高い専門知識や豊富な経験のあるM&A Propertiesにご相談ください。4万社に及ぶ顧客ネットワークを利用した情報収集とクロージング力があり、さまざまなM&A案件を成功に導いています。まずはお気軽にお問い合せください。
まとめ
M&Aの代表的な方法に、「株式譲渡」と「事業譲渡」がありますが、それぞれで、買収の仕訳の方法が異なります。正しく仕訳を行わないと、利益や納める税金の金額の計算を間違えてしまう可能性も高くなります。仕訳が不明な場合は、必ず事前に専門家に相談するようにしましょう。