M&Aをすると、繰越欠損金はどうなる?節税のポイントを解説

M&Aを行う前に自社や買収先の税務ポジションがどう変化するかは、必ず確認しておきたいポイントのひとつです。では、飲食店のM&Aにおいて赤字経営が続いている企業を買収することにメリットがあるのでしょうか。 この記事では、税務上の繰越欠損金がある場合にはどのようなメリットがあるのか、節税のヒントを具体的に解説していきます。M&Aの節税をお考えなら、本記事の内容を参考にしてください。


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税務上の繰越欠損金とは

M&Aによる繰越欠損金を考える前に、まずは税務上の繰越欠損金について基本的な事項を確認しておきましょう。

税務上の繰越欠損金の定義

欠損金とは、簡単に言うと税務上の赤字のことです。当該事業年度に生じたその欠損金は翌事業年度以降に繰り越すことができ、これを繰越欠損金といいます。欠損金や繰越欠損金は、会計上の利益や利益剰余金と似てはいますが、金額や意味合いは異なってくるので混同しないようにしましょう。

税務上の繰越欠損金は翌年度の利益と相殺することができ、課税所得額を減らすことで節税の効果を得ることができます。

M&Aの取り扱い

M&Aにおける繰越欠損金の取り扱いは、M&Aのスキームによって異なります。その主なスキームは「合併」と「株式譲渡」です。

合併は、2社以上の会社がひとつの会社に合体することです。合併される会社に繰越欠損金がある場合、その繰越欠損金を一定の条件のもと引き継げる場合があります。

株式譲渡の場合、ある会社を株式譲渡により自社の子会社としたとしても、自社に繰越欠損金を引き継がせることはできません。買収後、その企業の中で繰越欠損金を活かせるように工夫していく必要があります。

次項より合併と株式譲渡のそれぞれのスキームにおいて、繰越欠損金を有効活用できる場合について解説していきます。

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繰越欠損金を合併により有効活用できる場合

合併には、適格合併と非適格合併の2種類があります。原則的な処理は非適格合併であり、資産負債を時価評価する方法で、繰越欠損金を引き継ぐことはできません。ある一定の条件を満たすと適格合併となり、資産負債を簿価で受け入れ、繰越欠損金を引き継げるようになります。

適格合併の条件とは

適格合併の条件は、下記7つの条件を全て満たすことです。条件をひとつでも満たせていない場合、非適格合併と判定され繰越欠損金を引き継ぐことはできません。

適格合併か非適格合併かの判断は、決まりきった形式的なものではなく、下記のルールを総合的に鑑みたものです。そのため、繰越欠損金を活用したい場合は、合併前にきちんと適格合併に該当するのかどうか、合併に詳しい税理士に確認してもらうことが望ましいでしょう。
https://home.kpmg/jp/ja/home/insights/2013/10/taxqualifiedmerger.html
https://www.shinnihon.or.jp/corporate-accounting/commentary/restructuring/2018-02-09.html

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繰越欠損金を株式譲渡により有効活用できる場合

株式譲渡の場合、合併のように繰越欠損金を自社に引き継げるといった税務ルールはありません。ただし、買収企業において節税ができるように対策することはできるので、詳細を確認しておきましょう。

買収後に利益を上げること

繰越欠損金のある飲食企業を株式譲渡により買収した場合、将来、買収した飲食企業が計上する利益と繰越欠損金を相殺できます。たとえば、繰越欠損金が3億円ある飲食企業だとすると、3億円利益計上するまでは課税所得が出ないので、法人税を節税できます。

買収によるシナジーをうまく利用する

一方で、過去に繰越欠損金がある飲食店は、基本的には経営が上手くいっていなかったということを意味しています。そのため、買収後に利益を計上するといっても簡単にできることではありません。

そこで、買収後に繰越欠損金のある飲食店に利益計上させるためにも、M&Aによる積極的なシナジーの追求をするべきだといえるでしょう。

スケールメリットによる仕入コストの削減、経営指導、相互送客、アルバイトスタッフの最適化など、できることは幅広くあります。買収後に経営をV字回復できれば、節税メリットがある分、繰越欠損金のある企業の方が投資回収を早められる可能性もあります。赤字企業は買収金額も安くなる可能性が高まるので、飲食店経営に自信があれば、赤字企業で繰越欠損金のある売り案件を探してみるのも経営戦略のひとつと言えるでしょう。

株式譲渡の場合においても、繰越欠損金が認められないケースがあるので、注意しておく必要があります。

簡単に言うと、赤字であった買収前の事業を、買収後も継続して行う場合には繰越欠損金が認められますが、継続せずに買収後に新しい事業を開始したとみなされると、繰越欠損金が認められないというものです。

繰越欠損金が制限されるのは、買収後5年以内に以下の事由に該当する場合です。

①買収先が休眠状態の場合において、買収後に新たに事業を開始すること
②買収前の事業を買収後に廃止した場合において、買収前の事業規模の5倍を超える資金の借入または出資を行うこと
③50%超保有している株主等が買収先への特定債権を取得した場合において、買収前の事業規模の5倍を超える資金の借入または出資を行うこと
④上記①~③の場合において、買収先を適格合併させ残余財産が確定する場合
⑤買収先の役員が全員退任し、かつ従業員の20%以上が退職し、かつ買収後の事業規模が買収前の5倍を超える場合

もともとは赤字の休眠会社などを使った租税回避行為を防ぐために設けられたものです。
しかし買収先が通常の営業を行っている会社でも、買収から5年以内に事業内容を大きく変化させてしまうと、上記の該当してしまうこともあります。

特に旧オーナー一族が退任するなど、採算改善を進めるなかで、⑤の事由に該当してしまうケースには注意が必要です。

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繰越欠損金を有効活用するなら専門家に相談

繰越欠損金を活かすためには、高度な知識と経験が必要です。一人だけでM&Aを進めていると、「繰越欠損金が使えると思っていたのにいざ買収してみたら、繰越欠損金が使えず大損してしまった」という失敗も考えられます。

また、繰越欠損金のある飲食企業を買収したところ、「経営を立て直すことができず、繰越欠損金が逆に増えてしまい、節税メリットを享受するどころではなかった」ということもあるでしょう。

そこで、頼りになるのがM&A仲介会社です。世の中には数多くのM&A仲介会社がありますが、自分自身が本当に信頼できる会社に相談するべきです。その場合、M&Aだけに詳しいだけではなく、飲食店経営について豊富な知識とノウハウをもった専門家がいる会社にサポートを依頼するのが確実です。

M&A Propertiesは、創業以来、飲食業における取り扱い総額は10年間で450億円という豊富なM&A実績があります。飲食業界に強いM&A Propertiesであれば、飲食店の売り手側への打診、資料リストの作成、留意点の洗い出し、精密なデューデリジェンスなど、飲食業界のM&Aにまつわる包括的なサポートが可能です。

節税についても最適なアドバイスをいたしますので、繰越欠損金についてお悩みの経営者の方は、いつでもお気軽にM&A Propertiesへご相談ください。

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まとめ

このように、繰越欠損金がある飲食店のM&Aを行う際、その繰越欠損金を有効活用できるかどうかが重要です。合併であれば、適格合併に該当する場合は、合併される側の繰越欠損金をそのまま自社へ引き継ぐことができます。株式譲渡の場合は、買収後にシナジー効果の追求などで利益計上すれば、将来の節税効果を得ることができます。

「経営状態が赤字だから」とネガティブに捉えるのではなく、繰越欠損金をうまく活用することを検討してみましょう。