M&Aの買い手が簿外債務を見抜き、M&Aを成功に導く3つの方法

近年、少子高齢化による後継者不足により、多くの企業がM&Aを行うようになりました。この流れは飲食業界にも当てはまり、買い手企業を探している企業は多くあります。買い手企業にとっても、自社の事業を強化する上でM&Aは非常に効率的かつ有効な手段です。 しかし、M&Aを実行するにあたって解決すべき問題点はさまざまあります。そのうちのひとつが「簿外債務」です。 今回は、企業を買収する際に注意すべき「簿外債務」について、詳しく解説します。


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偶発債務が簿外債務の主な原因

簿外債務とは、その名のとおり「帳簿の外にある債務」のことであり、数字として目に見えない負債のことです。

そして、簿外債務として扱われる債務で多いのは、「偶発債務」と呼ばれるものです。

偶発債務とは

偶発債務とは、「今の段階では確実に発生するかは判断できない債務」のことです。言いかえると、「不確定であり、将来偶発的に発生する可能性のある債務」を指します。

会計上では、将来に債務として返済義務を負う可能性が高く、その金額を合理的に算定できるときには「引当金」を計上します。逆に将来、返済義務が生じる可能性が低く、その金額を合理的に算定できない場合は、「偶発債務」として注記のみで済ませます。

例としては、係争中の裁判から発生しうる損害賠償が考えられます。将来の発生可能性と金額が合理的に算定できないことが多いため、偶発債務として扱われるのです。

偶発債務であっても債務であることに変わりはないため、簿外債務として扱われます。

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簿外債務として扱われるものの例

M&Aで売手企業の企業価値を算定する際、簿外債務によって企業価値が大きく異なる可能性もあるので、注意しなくてはなりません。

では、簿外債務として扱われる可能性のあるものとはどんなものなのでしょうか。ここでは、その例を紹介します。

退職給付引当金

退職給付引当金とは、「将来において、従業員が退職するときに支払う退職金を事前に負債として計上したもの」のことです。

本来は勤務期間に応じて発生していく費用であるため、退職給付引当金をきちんと帳簿に計上している企業もあります。しかし多くの中小企業では、実際に支払うときに費用計上をするため、簿外債務として処理しています。

役員退職慰労引当金

役員退職慰労引当金とは、「将来退職する役員に支払う退職金を前もって負債として計上したもの」のことです。

上記で紹介した退職給付引当金と基本的な考え方は同じです。しかし、役員の場合はひとり当たりの金額が大きくなる傾向にあるため、簿外債務となったときの影響は大きいでしょう。

こちらも引当金がきちんと計上されていない場合、簿外債務として扱われます。

賞与引当金

賞与引当金とは、「将来支払うことになる賞与の金額を事前に負債として計上したもの」のことです。

通常、賞与の支払対象期間と実際の支払タイミングは異なるため、実際に支払うまでは引当金を計上します。しかし、引当金を計上せずに支払うタイミングで費用処理を行うと、支払時期までは簿外債務として扱われるのです。

貸倒引当金

貸倒引当金とは、「将来の売掛金が回収不能になる可能性が高い場合に、損失の見込み額をあらかじめ負債として計上すること」です。

実務において貸倒引当金の計上は企業に任されている場合も多く、どれだけ貸し倒れるかという金額の見積もりも難しいのが現状でしょう。そのため、貸倒引当金が計上されないと、簿外債務として扱われています。

債務保証損失引当金

債務保証損失引当金とは、「企業が他社の債務の連帯保証をしている場合、その金額を弁済するために計上された引当金」のことです。

他社の債務を連帯保証している場合、簿外債務として扱われます。

リース債務

リース債務とは、「ファイナンスリース取引によって資産をリースした際に生じる未払いの残高金額」のことです。

多くの中小企業で採用されている「賃貸借処理」と呼ばれる会計処理を使うと、リース料は支払いのタイミングで費用計上され、債務は計上されません。しかし将来にわたって返済義務があるので、この場合は簿外債務として扱われます。

未払残業代

未払残業代とは、その名のとおり「従業員に対して未払いの状態にある残業代」のことです。意図的に未払いになることは少ないものの、会社側と従業員側の残業における認識が違うというケースがあります。このような理由で問題になる場合が多いので注意しましょう。

未払い残業代が発生した場合、基本的な考え方は、「実際に残業をしたタイミングと残業代が支払われるタイミングが異なる」という点において賞与引当金と共通しています。支払いのタイミングで費用計上されるため、それまでは簿外債務として扱われるのです。

その他

上記以外にもさまざまな種類の簿外債務がありますが、これらの共通点は「将来想定される支出に対して債務があるにも関わらず、それを帳簿に計上していない」という点です。

具体例としては、以下が挙げられます。

・製品保証引当金
・売上割戻引当金
・修繕引当金
・デリバティブ
・係争中の訴訟問題 など

 

また、保有している土地の土壌汚染が発覚するといった想定しえないケースや第三者からの借入金を売り上げとして偽るなど、計上すべき内容を故意に計上しないというケースも考えられます。

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簿外債務が発生する会計方式「税務会計」とは

中小企業で簿外債務が発生しやすいとされる理由は、中小企業の多くが採用している「税務会計」という会計方式にあります。

税務会計とは

税務会計とは、「企業活動の成果である所得額の計算を重視した会計処理」のことであり、税金の計算に重点をおいた会計処理であるとも言えます。これには、会計上では費用として計上する一方、税務上は費用(損金)にならないものは、費用として計上しないという特徴があります。

税金の計算方法に近い会計処理方法を選ぶことで、納税額のおおよその額を明確にしたい中小企業で多く見られる会計処理方法です。

税務会計を使うと簿外債務が発生する理由

税務会計で簿外債務が発生する理由を、先ほど紹介した「退職給付引当金」で説明しましょう。

財務会計で処理すると、仕訳上において退職給付引当金は「退職給付費用100万/退職給付引当金100万」として費用と負債が計上されます。

一方、税務会計で処理すると、将来退職金を給付することは決まっているのにも関わらず、そもそも会計処理自体が行われません。

その結果、「退職給付引当金100万円」が簿外債務となるのです。

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買い手がM&Aで簿外債務を見抜く3つの方法

簿外債務にはさまざまな種類があると紹介しましたが、それらが積もり積もって多額になれば企業価値に大きな影響を与えます。また、M&A後に発覚すると、思わぬリスクに直面するかもしれません。

そこで、売手企業の簿外債務を見抜く方法を3つ紹介します。

徹底したデューデリジェンスの実施

ひとつめは、「専門家の力を借りてデューデリジェンスを念入りに行う」ことです。

簿外債務は目には見えないため、会計知識がないと見破ることは難しいのが現状です。そのため、専門知識を持つ公認会計士やM&A専門家の助力を得て、簿外債務の有無を精査する必要があるでしょう。

契約書への表明保証の明記

表明保証とは、契約前に確認した財務・税務・法務などに関する事実が正確であることの保証です。契約書に記載して売り手に保証してもらいます。

内容に虚偽があれば訴訟問題に発展する可能性があるため、それを回避したい売り手が正直に状況を申告する可能性が高くなります。後になって簿外債務が発覚することを防ぐ、抑止力として有効でしょう。

M&Aアドバイザリーサービスの活用

少しでも不安があるなら、専門家を活用してM&Aを実行しましょう。アドバイザリーサービスを活用することで、専門のコンサルタントが簿外債務の調査を含む、M&A戦略立案、業界調査を提供します。

各業界、企業ごとにサービスに違いはありますが、飲食店の場合は、M&A Propertiesのアドバイザリーサービスが有効です。弊社は創業以来、M&A取り扱い総額が10年間で450億円という、豊富な実績があります。また、飲食店のM&Aについて熟知した、経験豊富な専門コンサルタントが在籍しています。安全なM&Aの実行に、ぜひお役立てください。

M&A Propertiesの詳細は、こちらからご覧ください。

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デューデリジェンスによりで簿外債務が見つかった場合の3つの対処法

実際に簿外債務が見つかった場合の対処方法は、M&Aが成立する前か後かで分類することができます。

M&Aの取り止め

M&Aが進行途中の段階において、意図的に簿外債務を隠すような粉飾決算が発覚した際は、M&Aを取りやめるという選択肢を考える必要があります。

通常、M&Aの売手企業に何らかの問題が発覚した場合は、金額を下げるよう交渉することが一般的です。しかし、それでも不安を感じる場合は取り止めを検討することもあります。

そのまま簿外債務を引き継いでさまざまなリスクを抱えると、M&Aによるメリットを最大限享受できなくなる可能性があるためです。

事業譲渡によるM&Aへの変更

一部の事業や部門のみを買収する事業譲渡ならば、簿外債務を引き継ぐことなくM&Aを実行できることもあります。

自社にとって魅力的な事業や部門のみを買収することで、簿外債務などの思わぬリスクを抱える可能性を低く抑えられるのです。

表明保証に違反した場合の条項を履行

M&A成立後に簿外債務が明らかになった場合、事前に表明保証をしてもらっていれば、損害賠償請求や契約解除を申し出ることができます。

また、これによって粉飾決算等を抑止することもあるので、表明保証は契約書に明記しておくべきでしょう。

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まとめ

簿外債務は企業価値の算定に大きな影響を与えるにも関わらず、数字には表れることがありません。そのため、見過ごしてしまうと、M&A後に問題を引き起こすリスクがあります。

そのような事態に陥らないよう、M&Aの専門家や仲介会社を活用した着実なM&Aの実行を強くおすすめします。