有限会社と株式会社の違い
まずは、有限会社と株式会社の違いを説明します。会社の形態から責任の所在まで、さまざまな点で有限会社と株式会社ではルールが異なっています。
原則として有限会社であっても買収は可能です。しかし株式会社と比べた場合、買収に至るまで、踏まなければならない手順が少し異なります。
あらかじめ株式会社との違いを踏まえたうえで、買収のステップに進んでいくと良いでしょう。
有限会社の特徴
有限会社とは、2006年会社法施行前までに設立することができた、法人形態のひとつです。そして出資者は有限ですが、責任を伴います。
有限会社のメリットですが、主に以下の3点が挙げられます。
・決算公告義務がない
・会計監査の義務がない
このように、株式会社にはない特徴が有限会社にはあります。
他にも株式会社の場合、取締役の任期に制限がありますが、有限会社の取締役には任期が定められていません。
1991年の改正商法の施行において株式会社は 1,000万円以上の資本金がなければ設立を認められていませんでした。一方で有限会社の場合、資本金300万円を出せば設立が可能だったので、2006年に「会社法」が施行されるまでは、有限会社が数多く存在していました。
しかし2006年5月1日の会社法施行によって、1円からでも株式会社が設立できるように変更された結果、有限会社という法人形態は消滅したのです。ただし、「有限会社」という名称自体は、今でも使用可能となっています。
現在、2006年までに設立された有限会社は、株式会社の一形態である「特例有限会社」となっています。
前述した特徴などから、家族経営や個人事業のような小・中規模の事業者がよく有限会社を選んでいました。
株式会社の特徴
「株式会社」とは、出資者に株式を発行して会社を設立する法人形態のことを指します。そのため、株主と経営者が異なるケースもあります。加えて、株式の譲渡が可能です。
株式を発行して資金を調達し、それを元に事業を行っていく株式会社では、株式を購入しさえすれば誰もが出資者になることが可能です。
有限会社の取締役に、任期はありません。一方で株式会社の取締役には任期の制限があり、法人形態の違いで、条件が異なっています。
また、株式会社には決算を公表する義務があります。事業が成功して利益が上がれば、株価の上昇で出資者への配当金が増えますが、事業に失敗してしまえば配当金も減ってしまいます。それだけに、決算の結果は出資者にとって非常に重要です。
出資者をはじめ会社の経営状態を多くの人が監視しているため、自然と株式会社には事業の透明性が生まれます。
こういった透明性も、株式会社の大きな特徴だといえるでしょう。
有限会社の買収手順
有限会社(現在における特例有限会社。以下同じ)の買収手順を見ていきます。基本的な流れは、株式会社の買収手順と同じです。ただし、全ての有限会社には「株式譲渡制限」があり、その点が株式会社の買収手順とは異なります。
株式譲渡での買収手順
全ての有限会社には、「株式譲渡制限」があります。「株式譲渡制限」がある有限会社を株式譲渡によって買収する場合、買い手側と売り手側で株式譲渡について合意をしたのち、売り手である有限会社において、株式譲渡の承認が必要です。
この際、有限会社は取締役会を置くことができないため、株主総会の普通決議で株式譲渡に関する承認を決議していくことになります(会社法第139条1項)。
決議に必要な要件は、出席した株主から過半数の賛成を得ることです。
また、定款を変更して株主譲渡の承認機関を株主総会以外にすることも可能です。株主総会ではなく「代表者がひとりで承認する」と定款を変更すれば、株主総会で決議を行うよりもスピーディに株式譲渡を進めることができるでしょう。
ただし、定款変更には特別決議が必要です。特別決議は普通決議よりも決議要件が厳しくなっています。
買い手側は売り手側となる有限会社の定款を事前に確認し、株式譲渡の承認についてどのように定められているか事前に確認しておきましょう。
それ以後の流れは、基本的に株式会社のM&Aの進め方と同じになっていきます。
事業譲渡での買収手順
事業譲渡による買収を行う場合、買い手側と売り手側で事業譲渡について合意をしたのち、買い手側・売り手側それぞれで株主総会を開いて事業譲渡の承認を得る必要があります。その後、買い手・売り手の間で買収に関する合意・締結を進め、継承した事業の取引契約や雇用契約の結び直しを行います。
事業譲渡で注意しなければならないのが、株主総会の特別決議です。会社法第467条では、以下の条件に当てはまる事業譲渡を行う場合には、その行為の効力発生日の前日までに、株主会議の特別決議で承認を得なければならないとしています。
・事業全部を譲渡する場合
・事業のうち重要な一部を譲渡する場合【買い手側】
・事業全部を譲り受ける場合 など
ただし、会社法第468条により、以下の場合は株主総会の特別決議は不要です。
・略式手続事業譲渡
買い手が売り手の特別支配会社(総株主の議決権の10分の9以上を保有している会社)である場合、売り手側の株主総会は不要です。さらに、売り手が買い手の特別支配会社である場合は、買い手の株主総会も不要です。
・簡易手続事業譲渡
買い手が売り手のすべての事業を譲り受け、その対価が買い手の純資産額(法務省令で定める方法で算定する)の5分の1を超えない場合、買い手側の株主総会は不要です。
まとめ
今回解説したように、会社の承認が得られなければ、株式譲渡が成立しないからです。
会社毎に、譲渡承認のルールは異なっています。しっかりと買収したい企業先の定款は事前に確認しておきましょう。
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