店舗売却とは
店舗売却とは、賃借店舗を「居抜き物件」として売却することをいいます。
内装や空調設備などをそのままにして売却しますので、売却側からすると原状回復の費用が必要ありません。それだけではなく、店舗の売却価額に店舗造作のために要した費用加味して請求することが可能になります。
反対に、購入側からすると店舗をそのままの状態で引き継げますので、初期費用がかからず、営業開始までの時間短縮ができるというメリットがあります。
なお、M&A(事業譲渡)とは違って、店舗売却では営業権などの事業に関する権利の売却はできないことに注意しておきましょう。購入側も基本的に従業員の引き継ぎができないという点にも注意をしなければなりません。
買い手側の税金
では次に、店舗を売買することで発生する税金について、その内容を確認していきましょう。店舗の買い手側に発生する税金としては、以下のようなものがあります。
・消費税
・不動産取得税
・登録免許税
・印紙税
この項では、それぞれの税金の計算方法について順番に解説していきます。
消費税
買い手が売り手に対して支払う売却代金には、消費税が含まれています。
買い手が消費税の課税事業者である場合には、店舗購入時に支払った消費税は、課税仕入れとして買い手が納める消費税の金額から差し引きすることが可能です。
なお、店舗の本体価格には、内装・エアコン・トイレ・厨房器具等の設備全般が含まれることが少なくありません。食器や調度品などの細かい備品については、売り手と買い手が個別に相談をして売却の対象に含めるかどうかを決定することが多いです。
不動産取得税
土地や建物といった不動産を購入する場合には、不動産取得税という税金がかかります。不動産取得税は、土地・建物の固定資産税評価額に税率4%を掛け算して計算します。
登録免許税
土地や建物を購入した場合には、法務局で所有者が変更になった旨の登記を行うのが一般的です。登記を行うためには、法務局に対して登録免許税という税金を納めなくてはなりません。
登録免許税の金額は、土地や建物の固定資産税評価額×税率2%で計算します。
なお、2021年3月31日までは土地についての所有権移転等期の登録免許税は1.5%に軽減されています。
印紙税
店舗の売却にあたっては、売買契約書を作成するのが一般的です。
売買契約書を作成する際には、売買の対象物の金額に応じて印紙税を負担しなくてはなりません。これは、売買契約書に収入印紙を貼り付ける形で納税します。
たとえば、売買価額が5千万円超~1億円以下の場合には印紙税が6万円、1億円超~5億円以下の場合には印紙税が10万円となります。
売買の対象となるものの価額が大きくなるほど、印紙税の負担額も大きくなる仕組みだと覚えておきましょう。
売り手側の税金
次は、店舗売買の売り手側にかかる税金の内容について確認していきましょう。
店舗の売り手側が負担する税金は、売り手が「法人企業として運営されているか」「個人のオーナーであるか」によって異なります。
この項では、それぞれに発生する税金の種類と、具体的な計算方法について紹介します。
売り手が法人の場合
売り手が法人である場合に負担する税金は、以下のようなものがあります。
・法人税
・事業税
・地方法人税
・法人住民税
・消費税
・印紙税
法人税
本業の損益に、店舗売却によって生じた固定資産売却益をプラスした金額には法人税が課税されます。
法人税は年間所得800万円までの部分と、800万円超の部分とを分けて税率を掛け算します。2020年5月現在の法人税率は、中小企業者の場合は年間所得800万円までは15%、年間所得800万円超は23.20%となっています。
事業税
事業税においては、店舗売却によって生じた損益を、本業の損益にプラスして計算を行う必要があります。
事業税の税率は、所得金額に応じて以下のように定められています。
・所得400万円以下:事業税率3.4%
・所得400万円超800万円以下:事業税率5.1%
・所得800万円超:事業税率6.7%
地方法人税
2014年以降、「地方法人税」という新しい税金が創設されています。
地方法人税は、法人税の税額を元に計算を行います。具体的な計算式は以下になります。
地方法人税=法人税の税額×税率10.3%
なお、地方法人税の申告は、法人税の申告とまとめて行います。
法人住民税
法人住民税は、会社が事業所を置いている市区町村・都道府県に対して納める税金です。
その年の所得金額によらず発生する「均等割」と、法人税が発生する事業年度にのみかかる「法人税割」の2種類に分けられます。均等割は多くの地域で年間7万円、法人税割は「法人税額×12.9%」で計算されます。
消費税
店舗の売却は消費税の課税取引となるので、売却代金はその年の課税売上高に含める必要があります。
なお、消費税の課税事業者となっていない場合は、消費税については考慮する必要がありません。ただし、店舗売却によってその年の課税売上高が1,000万円を超える場合には、売却した年から2事業年度後の年度においては消費税の課税事業者となりますので、注意をしておきましょう。
印紙税
前述したよう、売買契約書に印紙を貼り付けて納税を行います。契約金額によって印紙税の金額が異なります。
売り手が個人の場合
店舗の売り手が個人のオーナーや、個人事業主として活動している事業者である場合には、以下のような税金が発生します。
・譲渡所得税、住民税
・消費税
・印紙税
それぞれの内容や税額の計算方法について、順番に確認していきましょう。
譲渡所得税、住民税
店舗を売却した場合、事業の所得とは別に「譲渡所得」を計算し、所得税や住民税を納める必要があります。
この場合の譲渡所得税は分離課税となりますので、総合課税である事業所得とは分けて申告手続きを行います。譲渡所得の金額は、以下の計算式によって算出されます。
譲渡所得=収入金額 – (取得費 + 譲渡費用)
税率は店舗を所有していた期間によって異なり、5年以内か5年超かによって以下のように分けられます。
・所有期間5年超 :所得税15%+住民税5%
・所有期間5年以内:所得税30%+住民税15%
消費税
消費税は、法人企業も個人事業主も基本的な扱いは同じです。
店舗売却の対価として得たお金には消費税がかかるので、消費税の計算時においては課税売上高として処理します。
印紙税
印紙税については、買い手が負担する印紙税と扱いは同様です。事業者として印紙税を納める場合は、収入印紙の購入費用を必要経費に含めて問題ありません。
まとめ
今回は、店舗の売却・購入を行う際に発生する税金について解説しました。店舗の売買は、売り手にとっては資金を得る方法として、買い手にとっては店舗オープンまでの手間と時間を短縮する方法として、互いにメリットの大きい方法だといえるでしょう。
その一方で、店舗の売買は高額な取引であることからも、かかる税金も大きくなってしまいます。店舗の売買を行うことによって発生する多額の税金を支払うことで、本業の経営が圧迫されてしまっては本末転倒です。
そうならないためにも、店舗の売買によって発生する税金の内容や、節税につなげるためのポイントなどを事前に把握しておくことが大切だといえるでしょう。