飲食店のM&A成功のカギはトレンドを把握すること
2000年代以降、外食産業において急速にM&Aが広まってきています。特に現在では、中小企業や若手経営者を中心とした戦略的M&Aが増えてきています。戦略的なM&Aを行うためにも、飲食業界のM&Aのトレンドについて把握しておきましょう。
飲食店業界における売手目線での業界トレンドは、5つに分類することができます。買手としては、売手目線のトレンドを理解することで下記のようなメリットが生まれるでしょう。
・買収後の経営計画を立てやすくする
M&Aの案件一覧を確認する際、この案件はどのトレンドに該当するのかを考えながら検討を進めると、頭の整理がしやすくなるでしょう。
飲食業界におけるM&Aの5つのトレンド
飲食業界におけるM&Aのトレンドは下記の5つです。それぞれの詳細について確認をしていきましょう。
① 戦略的売却型
② 事業承継型
③ 再生型
④ 資本業務提携・経営統合型
⑤ ファンド売却型
①戦略的売却型
戦略的売却型とは、大手飲食チェーンなどが業態整理を行う場合などが該当します。注力事業以外の好調事業でも高値で売却し、その売却資金を注力事業へ集中するのが目的です。
たとえば、2019年5月に「海帆」が飲食店事業を展開する「弥七」から、立食い焼き肉「次郎丸」事業をM&Aで取得しました。次郎丸は直営店1店舗とフランチャイズ本部事業5店舗があり、対象事業の業績は売上高1億6,700万円、営業利益911万円。取得金額は6,000万円でした。
買手から見ると、戦略的売却型の場合、好調事業を引き継ぐことができるため、譲受後から早期に利益を出すことができます。一方で、好調事業であるからゆえに売却金額は高くなりますので、投資に見合った収益を得られるかという観点のチェックは必須です。
②事業承継型
事業承継型とは、後継者のいない高齢オーナーなどが事業承継させることを目的として売却するタイプです。
後継者問題が解決することで、従業員や取引先、売却後のオーナーの精神的・金銭的なメリットがあります。仮に事業承継型のM&Aが行われなくなってしまえば、その店舗は閉店せざるを得ず、従業員の解雇、取引先も売上が減少し、関係者にとっては嬉しくないことでしょう。
今後も日本の高齢化社会を背景として、事業承継型のM&Aは増加するものと考えられます。
たとえば、2019年4月、フジオフードはサムズグループを運営するグレートイースタン(沖縄)を約27億円で買収。サムズグループは1970年創業の老舗レストランで、沖縄南部を中心にステーキハウスなど8店舗を展開していました。
事業承継型の対象となる売手は、長年店舗運営を継続しておりブランドやノウハウがある場合が他のタイプと比べて多くなります。ブランドやノウハウといった無形資産を、M&Aによりそのまま引き継ぐことができることが、買手の大きなメリットです。
他方で、長年店舗を継続していることから、なじみのお客さんや忠誠心のある従業員がいる場合がほとんどでしょう。そのため、やはりオーナーチェンジされた際の関係者への影響は大きくなります。
事前に企業文化を理解すること、従業員の性格やスキルを把握しておくこと、顧客層の分析、譲渡契約書で対応できる点は補填するなどの対策が必要となります。
③再生型
不採算の事業・会社を第三者の協力や提携により再生を図るタイプです。再生型に移行する決断が遅くなってしまえば、再生させることができずやむなく破産に至るケースもあるため、決断は早期であることが重要だといえるでしょう。
再生型のタイプはより詳細に、民事再生、会社更生、私的整理の3つに分類されます。
民事再生…法律の定める手続きによって進められる手続きであり、最もよく利用される法的再生の手法です。
会社更生…民事再生同様に法律の定める手続きによって進めますが、主に担保設定されている不動産等が事業再生に必要な場合に利用する手法です。
私的整理…法律にはよらず債権者や株主など関係者間での協議結果を基に再生を果たしていく手法です。
どの再生手続にも共通しているのは、債務の切り下げ、つまり債務免除が行われる点だといえるでしょう。
再生をする経営者は再生計画と呼ばれる事業計画を作成し債権者の同意を得ます。債権者が同意をする基準としては、再生計画が結果として多くの債権回収を実現できると判断できるかどうかです。再生計画を作成する場合、新たな第三者が株主として協力することが一般的であり、スポンサーとも呼ばれます。
2019年4月、カジュアルレストラン「HOOTERS(フーターズ)」の国内運営会社が民事再生法の適用を申請したことを受け、豊田産業グループが再生支援に乗り出しました。6店舗の営業は継続し、従業員約350人の雇用も維持することを決定。フーターズの経営を早期に再生させるとともに、首都圏での事業拡大につなげることが狙いです。
飲食店のM&Aを計画している買手は、このような再生型は案件自体が少ない一方、安価での飲食店譲受を実現できる可能性があります。もちろん、買手に企業再生や飲食店経営のノウハウ、資金的余裕があることが前提ですが、実際に再生できた際の金額的メリットは安値で投資している分、大きくなるといえるでしょう。
④資本業務提携・経営統合型
会社・事業の成長拡大を目的として、資本業務提携や経営統合を行う場合などが該当します。両社の経営陣は継続しつつ、それぞれの強みを生かしてともに発展させていくタイプです。そのため、スキームとしては株式譲渡、増資、株式譲渡と増資の組み合わせの3パターンで行われることが通常です。
買手の株式取得比率も100%ではなく、50.1%以上の過半数、20%以上の持分法が適用される比率、など様々な事例があります。売手側にもある程度の持株比率を残すことで、提携後も一緒に事業運営を行うことができるのです。
2019年5月、H2Oリテイリングは「和食さと」などを展開するSRSホールディングスの約3%の株式を取得して資本業務提携しました。両社は関西圏でのマーケットシェア拡大を目指す戦略的パートナーとなります。
買手目線からすると、資本業務提携・経営統合型の場合、経営の効率化や統合後のシナジーを見込むことができるでしょう。
そのため、事前に統合後の事業計画やシナジー計画を策定し、統合後も計画通りに進んでいるのかのチェックを行うことが必要となります。
⑤ファンド売却型
会社・事業の成長拡大のため、業界内のしがらみのない投資ファンドに売却するタイプです。ファンド支援のもと、管理体制の強化や合理的な拡大成長を図ります。売主である経営者は継続して代表取締役として残るケースもあれば、引退するケースもあります。
飲食店業界において、一番有名な事例はすかいらーくです。すかいらーくは2011年からアメリカのベインキャピタルの傘下に入り経営再建を進めました。その結果、2014年に再上場を果たし増収増益を続けてきています。
このようにファンド売却型の特徴としては、大規模案件であることが多く、金額に直すと数十億円~数百億円のディール(取引)が多くなっている点です。ファンドは買収した後、ドラスティックに経営改善させていき、5年程度で再上場等することで、利益を得ることを目的としています。
ファンドは投資・運用期限が決まっているので、投資先が上場を果たせない場合は、事業会社への売却も検討します。そのため、買手目線からすると、ファンドが投資して3年~5年程度経過している投資先は、買収対象となり得ます。
主なファンドが投資している外食企業一覧は以下になります。
PEファンド投資先一覧 | 2020年3月末時点 | |
ファンド名 | 投資先 | 時期 |
アドバンテッジパートナーズ | MPキッチン | 2016年6月 |
アドバンテッジパートナーズ | おいしいプロモーション | 2017年1月 |
ポラリス・キャピタル | BAKE | 2017年7月 |
ユニゾンキャピタル | 資さん | 2018年3月 |
ユニゾンキャピタル | ダイナミクス | 2017年6月 |
ロングリーチグループ | ウェンディーズ・ジャパン | 2016年6月 |
ロングリーチグループ | 珈琲館 | 2018年3月 |
ロングリーチグループ | シャノアール | 2020年1月 |
アントキャピタル | アミノ(うまい鮨勘) | 2019年8月 |
アントキャピタル | グルマンズ | 2018年6月 |
アントキャピタル | スプラウト・インベストメント | 2018年1月 |
アスパラントグループ | ヤマトグループ | 2017年3月 |
トライハードインベストメント | アンドモア | 2015年10月 |
トライハードインベストメント | デックホールディングス | 2018年6月 |
ベーシックキャピタルマネジメント | 豊創フーズ | 2015年7月 |
ベーシックキャピタルマネジメント | カルネヴァーレ | 2018年10月 |
キャスキャピタル | フードプラス | 2018年12月 |
エンデバーユナイテッド | 日本ピザハット | 2017年6月 |
エンデバーユナイテッド | ポケットフーズ | 2019年11月 |
インテグラル | TBIホールディングス | 2013年9月 |
いわかぜキャピタル | テキサスハンズ | 2019年6月 |
いわかぜキャピタル | ダイニングファクトリー | 2018年11月 |
いわかぜキャピタル | 親和 | 2017年6月 |
J-STAR | 越後屋 | 2017年9月 |
J-STAR | セクションエイト | 2018年1月 |
ジャパンインダストリアルソリューションズ | ブルームダイニング | 2018年7月 |
刈田・アンド・カンパニー | 大将軍 | 2016年3月 |
日本みらいキャピタル | カスタマーズディライト | 2019年8月 |
NSSK | SORAグループ | 2017年9月 |
クレアシオンキャピタル | 乃が美 | 2019年1月 |
クレアシオンキャピタル | ビーワイーオー | 2015年10月 |
FCDパートナーズ | 俺の | 2018年6月 |
日本企業成長投資 | サング | 2019年5月 |
丸の内キャピタル | サイプレス | 2019年9月 |
雄渾キャピタル・パートナーズ | SASAYA | 2020年3月 |
まとめ
今回は、飲食店業界のM&Aの5つのトレンドについて紹介してきました。5つのトレンドとは、①戦略的売却型、②事業承継型、③再生型、④資本業務提携・経営統合型、⑤ファンド売却型です。
本記事でも紹介したように、それぞれのタイプごとに、買手に対するメリットが異なってきます。たとえば、①戦略的売却型であれば「好調な事業を引き継げることができる」、②事業承継型であれば、「ブランドやノウハウを獲得することができる」といった点です。
売手の売却トレンドを把握することで、適切に買手としてはM&A計画やPMI計画を策定することができるでしょう。
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